ナギ:桜が咲き始めたね!
なつき:春と言えばさ、ナギさん、今年も4月から早稲田大学で教えるんでしょ?
ナギ:大学っていうか、早稲田大学エクステンションセンターっていう、誰でも参加できるスクールなの。今年は、題して『人物像で読み解く「江戸キモノファッション文化史」』。なつきさんもぜひ受講してよ〜!(→講座の詳細については、「井嶋ナギの日本文化ノート」へ)
なつき:まぁ受講したら間違いなく、今年の新作浴衣は夏に間に合いませんわね。受講しなくたって間に合わないんじゃないか? っていう崖っぷちラインに只今おりまして…(号泣)。
ナギ:だ、大丈夫? 新作浴衣、楽しみにしてるんだからー! でもさ、前から思ってたんだけど、なつきさんって、そもそもどうやって、そういう「江戸的なキモノ」をそんな理解しちゃったの?
なつき:(しばし考えて)…そんなのね、お玉を見てりゃわかるのよ〜〜〜ッ!
ナギ:言うと思った(笑)。でもね、私なんかはね、長年ずっといろいろな資料やら知識やらをかき集めて理解しようとしてきたけど、なつきさんって感性ですぐピンときちゃう人でしょ?
なつき:まぁ、あたしだってちょっとは勉強したさぁ(笑)。でもね、歌舞伎の、特にお玉さんが出るような世話物が好きで見てたら、なんとなく分かってきちゃったというのはある。
ナギ:特に、どこかで着付けを習ったりとかもしてないんだよね?
なつき:ないわね。
ナギ:ホント、大学時代からずっと江戸文化に浸ってきた私としては、月影屋の浴衣を見たときの「うわ! 江戸の浴衣、やっと見つけたー!」っていうあの衝撃は、忘れられないもん。
なつき:白と紺の浴衣のアイディアもねぇ、自然に降りてきちゃったのよねぇ。不思議とねぇ。(→これについては、対談第1回「カッコイイ浴衣について」をお読みください)
ナギ:もしかして、なつきさんって、江戸時代からタイムスリップしてきた人か? ってたまに思うことあるよ(笑)。
なつき:確かに、あたし、「浮世絵の人みたい」ってよく言われる。
ナギ:浮世絵の人(笑)。髪型も、芳年の浮世絵に出てくる人ソックリだもんね。
井嶋ナギが主張する、
「人物像を設定してキモノを学ぶ」ことの意味
なつき:ところでさ、ナギさんの講座『人物像で読み解く「江戸キモノファッション文化史」』の、「人物像で読み解く」ってどういう意味なの?
ナギ:私ね、つねづね、「着るもの」と「着る人」を切り離しては考えられない、と思っていまして。なので、必ず、江戸の典型的なキャラクターを設定して、その身分や職業やライフスタイルも説明しながら、キモノや髪型についても解説するようにしてるの。
なつき:吉原の花魁とか、芸者とか、娘とか、年増とか、毎回キャラクターを設定してるってことね?
ナギ:そう。というのもね、「キモノ」というファッションが完成した江戸時代って、身分社会だから。着るものや髪型は、「その人が社会的にどのようなポジションの人なのか」を表す大事な記号でもあったのね。
なつき:うんうん。
ナギ:だから、「着るもの」と「着る人」を切り離してしまうと、かえって難しくなっちゃう。それは同時に理解したほうが、あとあとラクだと思うの。
なつき:確かにね。例えばさ、キモノを全く知らない人が、紬のキモノに、金糸銀糸の帯を合わせちゃう、というようなことがあるじゃない? でも、なぜその組み合わせがおかしいのかと言うと、色味とか模様とかで判断してるというよりも、それぞれの背後にある歴史によって「コレとコレは合わない」と判断してる、ってことよね。
ナギ:そうなの。でもね、そういう歴史的背景って、意外と、キモノの着付け本とかルールブックとかに書いてなかったりするじゃない? だから、私もキモノ初心者のときは「なんでなんで?」ってモヤモヤしっぱなしだった。「こっちのほうが格が高くて、こちらのほうが格が低い」と言われても、「それはわかった。でも、なんで?」と。理屈で納得できないことって、丸暗記するの苦痛なのよ。少なくとも私はそうだった。
なつき:「なんでなんで?」ばっかり言って、一番生徒にしたくないタイプねぇ(笑)。
ナギ:でも、疑問を持つことが、すべての始まりだよね。「なんで、こっちよりこっちの方が格が高いってことになってるの? なんでなんで?」って、しつこく思い続けていいと思う。
なつき:あたしだってさ、「歌舞伎で役者が着てるキモノはこーんなにカッコイイのに、なんで、成人式とか結婚式とかで見かけるキモノはこんなにダサいのかしら?」って思ったものよ〜。
ナギ:まさに、私も! 高校生のときに『鬼龍院花子の生涯』をビデオで見てね、「こんなにセクシーでカッコイイキモノが昔はあったのに、今はなんでこうなっちゃった?」と、衝撃を受けたものだわ〜。
なつき:昔のキモノと戦後のキモノを比べて、コレとコレが同じ仲間だなんて、にわかには信じられなかったわよね(笑)。
ナギ:うん。純粋に「なんでだろう?」って思ったなぁ。
なつき:疑問よね。
ナギ:そういう疑問は、一生持ち続けなきゃ、って思うよね。
いい情景、いい景色
そして、心のなかのファンタジーについて
ナギ:でもやっぱり、私もなつきさんも、歌舞伎とか映画とかを見て、過去のキモノのカッコよさを発見した、ってことだね。
なつき:何度もしつこく言ってるけど、「月影屋」のルーツは、歌舞伎とか浮世絵にあるわけ。歌舞伎を見て、まず、「なんとまぁ、いい景色だねぇ〜!」と思ったわけですよ!(→これについては、対談第1回目と第2回目をお読みください)
ナギ:あ、それそれ! その「景色」っていう言い方、素晴らしいと思う。シーンっていうか、場面っていうか、その人物のいる全体だよね。
なつき:こないだ、井嶋ナギ先生に「月影屋評」を書いていただいたので、プロフィールページにもアップしましたが。(→ ぜひ、「月影屋、あるいは、鯔背な江戸美学への愛」をお読みください!) そこでも書いていただきましたが、そもそも「月影屋」をなぜやっているかって、アタクシ重田なつきが、"舞台総監督"になって、カッコイイ情景芝居をつくりたかった、ってことに尽きるんだよね。
ナギ:その情景芝居に出てくる役者のための衣装が、「月影屋」の浴衣だ、と。
なつき:そういうことがやりたかったの。
ナギ:でも、それわかるなぁ〜。私ね、こないだ自分の本(『色っぽいキモノ』)を、久しぶりに読んだんだけど(笑)。そこでね、「心のなかのファンタジー、例えば、江戸時代後期の深川芸者の世界や、明治時代の女侠客の世界など、私が身を置きたいと思っているファンタジーの世界を、脳内で具現化するためにキモノを着るのだ。自作自演脳内劇を演じてしまおう。」なんてことをね、私、書いてて。
なつき:へぇ〜。ナギさんの持ってるファンタジーって、どんなの?
ナギ:いっぱいあるんだけど、例えばね、『色っぽいキモノ』にも書いたけど、大学時代に読んで夢中になった『春色梅児誉美』シリーズの深川芸者の世界、とか…。
上画像:江戸時代の和本『春色梅児誉美』井嶋ナギコレクションより
なつき:『梅ごよみ』ね〜、こないだ、歌舞伎座で見てきたわよ〜!
ナギ:私も見た! 菊之助、濃厚な色気を出してたねー。
なつき:あの隅田川のねぇ、船のシーンでさぁ、こう衣紋を抜いて裾模様のキモノを着た芸者が、色男の丹次郎を見かけてこう言うのよ、「いい男だねぇ〜〜ッ!」(仇吉のモノマネ入る)
ナギ:月影屋ッ!
なつき:こういうセリフもね、キモノを着たときに言いたいわけ(笑)。
ナギ:そうか(笑)。私ね、変かもしれないけど、昔からフィクションとか映画とかを取り込みすぎて、「フィクションの中に入りたい願望」がものすごく強かったの。それで、キモノを着ることで、そういう願望を満たそうとした、っていうのはあるなぁ。
なつき:ナギさんは、膨大な数の映画やら小説やら歌舞伎やら、見たり読んだりしてきてるもんねぇ。膨大なお金と時間を費やしてねぇ。
ナギ:うん…。なんか私、現実世界に生きてないのかもしれない、と最近思うんだよね…。
なつき:確かにねぇ、貴女、浮世離れしてるっていうか、霞(かすみ)食って生きてるみたいなとこ、あるもんね(笑)。
ナギ:(泣笑)
キモノは、その時代の「文化」の一部である
ナギ:つまりね、私は、キモノを「キモノだけ」で取扱うことにあまりポイントを置いてなくて、「キモノがどのような世界で生きてきたのか」ということが大事だと思ってるんだ。
なつき:それって、やっぱり、「いい情景、いい景色ありき」でしょう。
ナギ:そうね。講座でもね、そのキモノや装いが、歌舞伎や映画や文学や浮世絵などで、どのように描かれてきたか? っていうことを、具体的に見ていくようにしてるの。
なつき:あー、それで講座のタイトルに「文化史」って付いてるのか。
なつき:それはね、あたしも声を大にして言いたいね。
ナギ:なつきさんも、例えば、洋服のファッションとかも好きだけど、それに関連したアートとか音楽とか芝居とか作家とか、いろんなものが好きじゃない?
なつき:当然よぉ。例えばさ、80年代の洋服があったとして、それは、洋服だけで成立してたんじゃなくて、その当時の音楽やお芝居や思想にもつながってるわけだし。
ナギ:だよね! こういうこと言っちゃうと語弊があるかもしれないけど、そう考えると、「キモノだけ」を語るというのは、片手落ちだと思ってて。「キモノだけ」という扱いには、私はあまり興味がないなぁ、と。確か、なつきさんも、「キモノが好きで好きでしょうがないってわけじゃなかった」って言ってたよね?
なつき:ああ、むしろ、嫌いかも(笑)。
ナギ:(笑) えーと、「いわゆるキモノ」が好きじゃないってことね(笑)。でもね、嫌いだからこそ、自分が好きだと思えるものをつくってる、っていうのは、ものすごく本来的だと思うよ。
なつき:でしょう? まぁ、あたしは、もともとお洋服が好きだったからさ。ファッション好きで、歌舞伎を見ていれば、自然と歌舞伎のキモノに目がいく、って話。
ナギ:うんうん。
なつき:だから、「風俗」とも言えるよね、フーゾクじゃなくてさ(笑)。たとえばね、あたし、洋服でもディオール・オムのタキシードみたいなジャケットが大好きで、何着も持ってるんだけどさ。
ナギ:いつも着てるあのジャケットね、素敵だよね〜!
なつき:しかも、同じ型のものを2枚も持ってんの(笑)。こういう礼服みたいなジャケットを着るとね、あたしもフォーマルな身のこなしになるもんね。で、月影屋の浴衣を着ると、お玉さんが演じる土手のお六みたいなふるまいになるわけよ、しゃべり方とかね、勢いとかね。それを含めての「風俗」なのよね。
ナギ:あー。なつきさん、言動まで変わるよね。意外と。
なつき:そうそう、ガラッと言葉づかいも変わるし、歩き方まで変わっちゃうもん。こう歩いていって、こう止まる、とか。
ナギ:ピシッとするときはすごいピシッとするよね。きれいな敬語つかってね、礼儀正しくてね。みなさん、なつきさんは、いつも「ガラッパチ」なわけじゃありませんよ〜(笑)。
なつき:当たり前じゃない! みくびってもらっちゃぁ困るんだよッ!(土手のお六のモノマネ入る)
上画像:江戸時代の和本『春色辰巳園』井嶋ナギコレクションより
インプットがあって、初めて理解は深まる
なつき:でもさぁ、今日話してきたようなことってさ、結局、インプットが大事、インプットがなきゃ始まらない、って話でもあるのよねぇ〜〜。
ナギ:インプットねぇ。勉強しなさい、ってことかぁ。
なつき:そう言えばさ、こないだ、ナギさんが「私、インプットをもうそろそろ諦めようと思うの」って言ったじゃない? あれ、爆弾発言だったわよね。ビックリしたわよ(笑)。
ナギ:あー、そんなこと言ったか! すっかり忘れてた(笑)。いや、でもホントね、私、40数年生きてきて、インプットばかりし過ぎてきたかもと思って、それはそれで思うところあるのよ(笑)。この異様なインプット欲っていうか、もうキリがないじゃない?
なつき:ホントだよ、貴女もそろそろ老い先短いんだし、インプットだけで人生終わっちゃうわよ〜! みたいな話したじゃない。もう忘れてるとは…。
ナギ:すっかり忘れて、日々インプットばかりしてた(笑)。
なつき:でもね、だからこそ、あたしは貴女を尊敬しちゃうんだけど。やっぱりね、膨大なインプットの量があるわけでしょ、膨大な量の本を読んでて、映画やら歌舞伎やらいろんなものを見てて、それを系統立てて、自分の論を抽出してるわけでさ。でもって、そのエッセンスを、講座で教えてるわけでしょ?
ナギ:そうねぇ。
なつき:だって、貴女の家にアホみたいにたくさんある本をさ、こっからここまで買ったら大変だよ? っていう話よ。ウン100万円とかかってんだから!
ナギ:そんなにかかってるかなぁ、古本が多いからなぁ(笑)。
なつき:そんな細かいことはどうでもいいのよッ!! そういうナギさんのエッセンスを1万5千円くらいで受けられるんだから、皆様、ナギさんの講座、超お得よ〜! と言いたい。ていうかさ、お月謝20万円くらいもらったら?
ナギ:あはは(笑)。でもね、確かに、自分が「なんでなんで?」って思って、10年以上かけて、調べたり考えたりしてきたことを、何回かの講座で教えてもらえるとしたら、自分もこういう講座あったら受けたかったって思う(笑)。自分で言うのもなんだけど、「お得」だと思います〜。
なつき:井嶋ナギさんがインプットを諦めてしまう前に、皆様、受講したほうがいいかもよ?
ナギ:だけど、「インプット諦める」発言、自分ですっかり忘れてたっていうの、ちょっとショック…。
なつき:貴女みたいな「しらべ魔」が、インプットを諦めるわけないわよね。それってもう「癖(へき)」でしょ。「性(さが)」っていうか。
ナギ:「業(ごう)」っていうか。
なつき:貴女も大変ねぇ…。
ナギ:(笑)
なつき:まぁでも、インプットがないと、結局は、何も始まらないし、深い理解にも及ばない、っていうのが、アタクシの常日頃からの持論ではあるわね。インプットって、本当に大事。
ナギ:じゃあ、まずは、みなさん、歌舞伎や映画を見てみましょう、ってことかな?
なつき:っていうか、もっと手っ取り早い方法があるわよ! 井嶋ナギの「江戸キモノファッション文化史」講座を受講すればいいのよ!!!
ナギ:そうだった(笑)。みなさん、ぜひお気軽にご参加くださいね!(→講座の詳細については、「井嶋ナギの日本文化ノート」へ)……というわけで、次回の対談のテーマは、月影屋の新作浴衣について…かな?
なつき:ぎゃぁぁぁ〜〜〜!!! もし新作浴衣が出来てなかったら、ゴメンなさ〜い!(笑) 次回も、夜露死苦!!!!!
ナギとなつきの高いもん喰わせろ
対談ナギとなつきの高いもん喰わせろ
ナギと!なつきの!!高いもん喰わせろ